窓の外は陽も落ち薄暗く、ランプの光だけがほんのり輝いていた。

 スネイプは薬ビンを棚にしまいに立った。

 早ければ薬が効き始める頃だと思った。

 「・・・う・・・。」

 医務室の一番奥。ハリーのベッドから、微かな呻き声が聞こえた。

 スネイプが戻ると、ハリーが額に微かに汗をにじませうなされていた。

 ”どんな夢なのか・・・。” 

 いや。それはたやすく想像出来た。

 ハリーの目元に涙がつたう。

 「パ・・・パ・・・。マ・マ・・・。」

 消え入りそうなそのうわ言。 ハリーの手が空に伸ばされる。

 しばらくそれを見ていたスネイプは、遠慮気味にその手を捕らえた。

 ハリーの口元が笑顔を形作った。

 「パ・・・・パ・・・・・・。」

 ハリーの目からは、ただただ静かに涙がこぼれ続けていた。

 スネイプがほんの少し覗き込むと、うっすらと目を開いた。

 焦点の合わない瞳がスネイプを認めると、ハリーは花が開くように

 フワリと笑った。

 スネイプが訝しげに眉間にしわを寄せ、話しかけようとした時。

 思いがけない言葉。

 「セ・・・ブル・・ス・・・。」

 目を見開く。

 彼と同じ顔で。同じ笑顔で、自分の名前を呼ぶ口元。

 スネイプが捕らえた手とは反対の手でスネイプの頬を撫でる。

 そして、人懐こい笑顔。

 懐かしく心の底から憎んで、心の底から欲した笑顔。

 スネイプが更に顔を寄せると、”彼”は少し顔を浮かせ口付けた。

 ついばむ様に軽く。

 ほんの少し離れると、”彼”は声無く唇だけで一言。。。

 そして切なげに微笑むと、再び眠りについていく。

 二度と覚めない眠りに帰って行く。

 ハリーの目元を一粒の涙が伝った。


 出血が酷く、動かせない生徒の怪我を見に出ていたマダム・ポンフリーが、こっそりカーテンから覗くと、

 ハリーは安らかな寝息をたてて眠っていた。

 ”薬が良い作用をしてくれました。”

 と胸を撫で下ろし、なるべく音を立てない様にカーテンを閉めた。


 二日後。ハリーは、近年稀に見る清々しい目覚めを体験した。

 熱でうなっていたロンとハーマイオニーも、マダム・ポンフリーの魔法薬のお陰で

 すっかり熱も下がり、動けるようにまで回復していた。

 二人は、”もう1日安静に。”と言い渡されているハリーの為、

 医務室から動けないハリーの為に、見舞いに来ていた。

 「でも本当に良かったよな〜〜。君が居ない間、

  ネビルなんかず〜〜っと泣きながらヘドウィグに謝ってたんだ。」

 ロンが苦笑気味に肩をすくめた。

 「授業に出てた人から状況を聞いて、本当に一時はどうなるのかと心配したわ。」

 ハーマイオニーが、心底良かったと胸を撫で下ろす仕草をした。

 「でも、そんなに強い眠りを覚ます薬なんて。

  どんな魔法薬をハリーに飲ませたのかしら?とても興味があるわ♪」

 ハーマイオニーが嬉々として言うと、ハリーは肩をすくめ、

 「ボクも気になってマダム・ポンフリーに聞いたんだけど教えてくれないんだ。

  最上級生になったら判る。って言ってたんだけど・・・。」

 ”そうなの。”とハーマイオニーが残念そうに肩を落とした。

 その後はしばらく談笑が続いたが、ハリーは一つだけ言えない事があった。

 二人がマダム・ポンフリーに追い立てられ、寮に帰った後。

 ハリーは思い出していた。

 『アレは、夢だったのかな。本当に。』

 ハリーはふと思い出し、そっと自分の唇に触れた。


 棚の中。小さな小瓶。ラベルは無い。

 二度と開けないと誓って棚の一番上の一番奥に仕舞い込み、

 しかし、月に一度手に取るその薬瓶。

 中にはパールの光沢を帯びた白い液体が入っている。

 小瓶の淵。スネイプはそっと口付けた。

 鋭い猫のツメの月が明るく、カーテン越しにボンヤリとスネイプを照らす。

 東洋の花の名前を冠した薬。

    『月下美人』

 眠る者に夢を見せる薬。

 それは見るものによって、ひと時の甘い夢であったり、

 ともすれば、悪夢を見せる事もあり得る、”夢見薬”

 悪夢になるか、善夢となるかは、服用した者次第。

 『狂うも狂わぬも、その心のままに・・・。』

 月の魔力を封じ込めたその薬は、深く眠る者の無意識を呼び起こし、

 夢を見せる。

 良い方に作用すれば、深い眠りを解き、活力を与える。

 だが、悪くすればその夢の甘さの虜になり、服用しすぎて現実の世界に

 戻ってこれなくなる。

 一時期は、夢に溺れ現実で生きる事を放棄する者が続出したほどだった。

 その為に、今では許可無く使用する事は禁じられている。

 扱える者も、限定されている。

 それ程に危険な薬を、スネイプは学生時代に、

 良い夢が見れる薬だと偽って飲ませた人物が居る。

 《ジェームズ・ポッター》

 事あるごとに自分にイタズラを仕掛け、

 それだけでは飽き足らず、あのブラック家のシリウスと共に

 いつも自分の上を歩いていた男。

 スネイプは嫌いだった。憎んでいたと言っても良い。

 最上級生の冬休み。

 使われていない教室に呼び出した。

 ”お前に渡したい物がある。二人だけで会いたい。”

 そう言った時。ジェームズはとても嬉しそうに笑った。

 いつもは意地悪げに自分を見つめていたその瞳が、

 あんなにも優しく笑うのだと、初めて気付いた瞬間だった。

 だが計画は変えなかった。ジェームズが自分に恐れをなし、

 近づかなくなって欲しかったから。

 一足早いクリスマスプレゼントだと渡した時も、

 ジェームズは自分を疑うことなく、少し照れた様に笑っていた。

 その夜、”彼”は狂った。

 手の付けられぬ暴れよう。引きちぎられたパジャマやシーツ。

 まるで獣の様に彼は部屋中を痛めつけ、自分を傷つけた。

 残っていた教授達が総出で沈めた時、

 ”彼”の体はボロボロで血だらけになっていたらしい。

 ”彼”は直ぐにロンドンの病院へと搬送された。

 クリスマスにも彼は帰らなかった。

 クリスマスの朝。

 スリザリン寮の談話室のツリーの下に、スネイプ宛にプレゼントが届いていた。

 ”親愛なる セブルス・スネイプ君へ”

 涙も出なかった。

 自分の犯した罪のあまりの深さに、スネイプは食べ物を受け付けなくなっていた。

 ダンブルドアが心配して寮に訪れた時も、スネイプは頑なにその言葉を拒んだ。

 新年になり、翌日から授業が始まると言う日の朝。

 スネイプの元にフクロウ便が届いた。

 ”彼”からのものだった。

 夕方。夕日の差す廊下に彼は現れた。

 スネイプを見つめて言った。

 「それでも、ボクは君を好きなんだ・・・。」

 爪先立ち、両手で顔を引き寄せ、彼はスネイプに深いキスをした。

 微かに震えるまつげ。

 シャツの首元から見える、まだ取れていない包帯。

 スネイプは思った。

 あの時ジェームズは自分の心に呪いをかけたのだと。

 呪った主が消えてしまっても続く呪いを。

 


 「私はまだ、呪いを解けていないのだ。ポッター。。。」


 


え〜〜〜と。まあ。そうですね。
せつな系を目指したつもりなんですけど。どうでしょう?
まとまり無くてすいませ〜〜n(T-T)