ある晴れた日の朝。
「・・・どうしたんだろう?体がだるい・・・。」
体を起こそうとして、あまりの気だるさに、上半身しか起こせない事に気付きました。
頭がグラグラして天も地も判りません。
頭も廻りが悪いのか、自分の状態がどうなっているのか考えても、答えが出てきません。
キーンと言う耳障りな音が先程から頭の中で鳴っています。
「喉が渇いた・・・。」
気付けば喉がカラカラで、水を飲もうとベッドのヘリに座り腰を浮かせた瞬間、足から力が抜け、
ヘタリと床にへたり込んでしまいました。
「・・・力が、入らない・・・。」
ベッドにしがみつき立とうとしても、全身から力が抜けているようで、ベッドに戻る事も出来ません。
何とかベッドには戻ろうと四苦八苦していると、ドアが突然開きました。
キーンという耳鳴りの中、扉を開けた本人の声が聞こえました。
「だ、大丈夫ですだか?!」
聞き慣れた声。直ぐに彼はへたり込んだ自分をベッドに戻してくれました。
暖かい大きな手が、事も無げに自分を抱え上げます。
ベッドに寝かされると、まるでベッドに沈み込んでしまいそうな感覚がしました。
彼の大きな手が額に当てられました。
「なっ!すごい熱ですだ旦那!安静にしててくだせえっ今水をお持ちしますだ!」
熱のせいで目が潤んでぼやけた彼の顔を、見つめながら頷く。
彼は慌ただしく出てゆき直ぐに戻ってきました。
彼に支えられながら水を飲むと、横になりまた眠りにつきました。
どのくらい眠ったのでしょう。耳障りなキーンという音はか細くなり、殆ど聞こえなくなっていました。
体のだるさは相変わらずでしたが、先程よりは気分も良いようです。
ふ。と、小さくため息をつくと、扉の向こうから声が聞こえ、誰かが居るのに気付きました。
「そんなに酷いのか?」
ああ。この声も聞き慣れています。
「そうなんですだ。オラが来た時は床にへたり込んでいなさったので、
直ぐにベッドに寝かせましただ。熱もただ事じゃねえですだよ。」
どうやら随分心配させてしまった様子。
彼の声は随分低く、自分を気遣っているのが判ります。
「そうか。なら今は見舞いもよした方が良いな。」
二つの足音が扉の前から遠ざかります。
少し寂しいと感じました。
少しだけ気分が良くなっていたので、話をしたかったのです。
彼らの足音が聞こえなくなり、気持ちはベッドよりも下に沈んでいきました。
ただ天井を眺めていると、また眠気がおそってきて、する事も考える事もないので眠る事にしました。
またどのくらい眠っていたのか、目が覚めると部屋の中は薄暗く、
小さなロウソクの明かりが、テーブルの上でユラユラとしていました。
ずっと寝ていた為に体が痛く寝返りを打っても直らないので、体を起こす事にしました。
窓の外には明るい月の光が、うっすらとヴェールの様にほの明るく輝いていました。
ベッドから起きると、今朝よりは体も軽くなり、どうやら起きれるようです。
床に足を着くと、床の冷たさが心地よく感じました。
ふと、人の声が聞こえました。
見れば閉まっていると思っていた扉が、いくらか開いていました。
そして扉の向こうに足音。
何となく驚いて、急いでベッドに潜り込みました。
息を潜めて様子を伺っていると、まだ幼さの残る声。
「ねえ。どうして扉を開けておくのさ?きっとうるさいと思うよ。」
無邪気に、でも自分を気遣って少し密やかに話しかけています。
すると、別の足音が近づいてきます。
「病気の時って、他にうつると困るから隔離されるだろう?
お前寂しくなかったか?」
”う〜〜ん”と考える声。そして、
「寂しいよ。ボクは寂しいから部屋に居ないよ。みんなのとこに行っちゃうな。」
無邪気な声。
「まあ、その手もあるけど、あんまり具合が悪くて起きれない時は無理だろ?
だけど、1人にされる事が多いから、寝ててもいい夢見ないんだ。
話相手も無いから目が覚めても暇だ。きっとフロドもそうさ。」
メリーの確信じみた声が聞こえました。。
「だから、少しドアを開けとくのさ。そうすれば俺たちの声が少し聞こえるだろ♪
1人じゃないって判れば寂しくない。寂しくなければ、悪い夢も見ない。」
「流石メリー!そうか♪じゃあ、もう少し大きい声で話した方が良いんじゃないかな?!
ねっ♪」
ベッドの中でクスリと笑みがこぼれます。ピピンらしい。
「馬鹿な事は言わねえでくだせえ!病気の時は静かに安静にしてるのが一番ですだっ」
サムの低い抗議の声が聞こえました。
夕飯の支度でもして手に何か持っているのか、何かをかき混ぜる音がしています。
「まあ、少しくらいは良しとしようじゃないかサム。あんまり羨ましくて
フロドもいつまでも風邪となんか仲良くしてないさ♪」
「そ、それなら良いんですだが。くれぐれも更に具合が悪くならんようにお願いしてえですだ。」
そして3人で扉からこちらを伺っている様子。
間もなく3人はリビングに帰って行きました。
扉が開いているお陰で、彼らの楽しげな声が聞こえます。
私はベッドの中で幸せな気分に浸っていました。
きっと明日の気分は最高のはず。良い目覚めをするだろう。
その前に今夜見る夢はきっと楽しい事は疑いない。
明日は。きっと明日はあの笑い声の中に帰ろう。
それから何度かピピンが覗きに来ました。
微かに聞こえるピピンの、
「フロド、明日はきっと元気だっ」
と言う声に笑い声が漏れそうになり、肩が震えましたが必死でこらえました。
窓の外には冬の冴えた月の光が、薄いヴェールを引いています。
幸せな気持ちの中。私は何度目かの眠りに着きました。
「明日は・・・、きっと・・・。」
◆ FIN ◆
病気の時って、隔離されるから寂しくないですか?
風邪なんか特に。
何だか”孤独”感が増すって言うか。
だけど自分は誰かと話をしたりできる状態でもない。
でも、扉の外から自分に干渉しない程度に聞こえる家族の声が
自分を凄く幸せにしてくれます。
自分の話題で話してると特に。
「早く良くなると良いね〜。」とか、言われたら次の日全快間違いなし!
まあ、指輪キャラ達もきっとそうじゃないのかな?
って思いながら作りました♪