猫が一匹。そろそろと流れる小川に、鼻先ギリギリまで水面に顔を近づけ、覗き込んでいる。
私は、何をしているんだろう?と近寄ってみました。
「おや?」
猫は私の飼い猫の《ガチャピン》でした。
私はガチャピンの後ろから小川を覗き込みます。
小さな、メダカでしょうか?魚が、水の中をゆらゆらとゆったり飛ぶように、
流れに緩やかに逆らいながら泳いでいます。
「あんた何見てんの?」
いつも話しかけるように私が言うと、ガチャピンはこちらを振り向き、目をパチリと瞬きさせました。そして、
「お魚を見てるのよ、ママ。」
「え?!」
猫が人の言葉を喋りました。
驚いて思わず出た声を、ガチャピンは理由を聞きたいのだと思ったようで、
「ママ。私はいつもお魚の入った《カリカリ》を食べてるけど、
お魚って何なのか、どんな形をしてるのか知らないの。
だけど「魚」って聞くとちょっとヨダレが出ような気がするの。
きっと私を産んだママもそのまたママのそのまたママくらいが
お「魚」を大好きだったんだと思うのよ。」
ガチャピンはゆっくり言うと、すぅっと息を軽く吸って、再び話し始めました。
「だからね♪私もお魚を見たくなったの。だからお部屋を出てここまで来たの。
なのに、このオ水の中には小さいお魚しか居なくて、あまりに小さくて
美味しそうに見えないの。」
少しタレ目のガチャピンの目が、残念そうに更にタレ目になりました。
『魚が水の中に住んでる事は知ってたんだ。。。』
と言う私の疑問はさておき。
小川はメダカ程度の魚が住むには適した大きさだと思えたけれど、
ガチャピンが見たいような大きさの魚は、住むには小さいし浅すぎました。
もう少し大きい魚を見せてやりたいと思いましたが、
辺りを見回しても、見えるのは背の高い草の野原と地平線くらいです。
ガチャピンが喋れる不自然さも忘れて、どうしたものかと考えていると、
いきなり遠くで大きな音がしました。
音の方を見ると、地平線に巨大な魚が飛び出して、また消えていくのが見えました。
大きな水音と共に地響きが起こり、小川の水が跳ねて私の足をぬらしました。
するとガチャピンが、
「ママ!何て素敵!!私あのお魚が食べてみたいわ♪
あそこに行きましょう!あそこは何かしら?大きな水のみ?
それとも水溜り?まさかお風呂?!!」
早口で言うと、ガチャピンは私の肩に飛び乗って耳元で私を急かしました。
仕方なく歩こうとすると、足が動きません。
「あれ?」
見れば小川の水が溢れて、私の足のくるぶしまで来ていました。
でも泥にはまった訳でも無いのに、足が上がらないのはおかしい事です。
急かすガチャピンの声。動かない足。溢れてくる水は何故か生暖かく気持ちが悪いのです。
「どうしよう?!ガチャ!足が動かないよ?!」
肩で騒ぐガチャピンにうったえると、
「ニャア!ニャーーン!」
突然に名子の言葉に戻っています。
水は生暖かいまま膝の辺りまで上がってきました。
「どうしよう!どうしよう?!」
そう、私が叫んだ瞬間。
『パチリッ』
目が覚めました。夢だったみたいです。
ほーーー。っとため息をつくと、私が目を覚ましたのに気付いた本物のガチャピンが
「ニャー」と鳴きながら、ゴリゴリと私に頭をこすり付けます。
そして私はふと気付きました。
足元が生暖かい。。。しかも、この感触。濡れている。。。
飛び起きて布団をめくると、ぐっしょりと膝まで猫のおしっこで濡れていました。
「ナニ??!!!」
と、声を上げた瞬間。逃げた猫が2匹!
「団長!!ナーーーイ!!!!」
現在のボス猫・団長と、誰にでも我が道猫のナイが、私の布団にそろっておしっこをしてしまったのです。
猛烈な勢いで叱られた団長はしばらく私に寄り付かず、
ナイはこびを売るのに必死でした。
そしてガチャピンは。
ちょっと気になって、本物のお「魚」を見せてやると、「臭い!」という顔をして
そっぽを向いてしまいました。
まあ。現実なんてそんなものですものね。。。
一応作り話です。でも登場する猫は私の正真正銘の飼い猫です。
ガチャピンは、家の猫の中で2番目に年のいった猫で、8歳になります。
団長は真っ黒の、顔の大きい臆病な猫で、ボスなんだけど人間が苦手で、
飼い主の私にもあまり寄り付きません。
寝てる時にそっと枕元に来て寝ます。
以前、日記に書いていた、「夜刀(ヤト)」とボスの座を争ってよく喧嘩をしていました。
ナイは、生まれたときから尻尾が短く、普段から「尻尾ナイナイちゃん」と
読んでいたら、「ナイ」と言う言葉に反応するようになったので、
今はナイと呼ばれるようになりました。
ガチャピンは、もともと捨て猫のお母さんから生まれた野良猫でした。
兄弟猫の小麦と一緒に私の妹に拾われ、犬の水(スイ)ちゃんとも仲良く、
おおらかな性格の猫に育ちました。
どのメス猫よりも母性が強く、今里親を募集している子猫を一番に気に入って
育てているのも、このガチャピンです。
目が大きくタレ目で、ポンキッキのガチャピンに似ている事から
この名前になりました。
全身真っ白の、尻尾の先がクルンっと巻いてるカギ尻尾。
人に良く懐き、私の心のケアも担当している、心の優しい猫です♪
ただ、寝る時に私の顔に乗るのだけはちょっと。。。